推しと元推しがアイドルを卒業しました。

推しと元推しの卒業が発表されました。

嘘ではないです。だって、二人は、発表からしばらくたっても、自分の言葉で「卒業します。」とは言わなかったから。推しが卒業を発表しました、ではなくて。ただ、運営の言葉で、推しの卒業が発表されました。

プロデューサーの半強制交代と初期メンバー全員と二期の最年長メンバー、6人中4人の卒業は、他のアカウントでも驚きの声が見えたほどで、地下アイドルにしては影響力があったのかな、なんて。だって7年半も続けていたんだもの。
それなら解散の方がマシ、ネームバリューだけ使う魂胆が丸見え、なんて声もたくさん聞いたけど、私はこれでよかったのかな、とも思っていた。初期メンバーは個人仕事も多くて忙しそうで、初期メンバーが出られない時を支える目的もあって二期が入ってきて。いつ誰がやめてもおかしくないと思っていたし、やめたメンバーもいたし、このグループの名前が残ることでここに所属していた推しと、このグループのリーダーだった元推しの記憶は残り続けると思ったから。

6年半前に元推しと出会った。身体は小さいのに声もダンスも大きくて、真っ直ぐな歌声とMCでみんなを引っ張るリーダーのことを好きになった。生まれて初めて、e+でチケットを買った。生まれて初めて、ライブハウスに行った。生まれて初めて、チェキを撮った。大学受験を控えていた私は、ずっとそのグループの曲を聴いていた。『ヒロイン』って曲の、「まわりの大人たちはいつだって幸せな近道を説くけど誰かと同じ道歩いて何になるの?」って歌詞が大好きだった。心の支え、って言葉の意味を知った。

大学生になったら、もっと現場に行くつもりだった。けれど、体調不良によるメンバーの活動休止、炎上によるメンバーの脱退、個人仕事の増加による現場の減少と、現場の数自体が少なく、告知も直前になりがちになり、行くに行けない状況が重なった。元推しは、どこまでも輝く言葉を、ステージで語る人だった。メンバーが欠けて頭を下げる元推しを見るのがつらかった。大好きだったグループが壊れていくのを見ていられなかった。
推し変をしたのは、彼女のせいじゃないよ。彼女は一度も下を見ることはなくて、すごく、強い人だ。私の心の弱さのせいだったんだ。推し変をした今でも、元推しは私の光で、一生忘れられない、私を変えてくれた神様みたいな人だよ。

他のグループのオタクを始めて、もうこのグループを応援できるか分からない、そう思っていた時にオーディションを経て二期として入ってきたのが今の推しだった。二期で最年長って、難しい立ち位置だったと思うけど、丁寧で大人な言葉を紡いで、有言実行するようにどんどん上達していって、どんどん綺麗になって、自分で仕事をとりに行こうとする貪欲さがあって、それでもアイドルとして成長するための努力を惜しまない彼女を、応援したいと思った。元推しは人気メンバーだったし、歌もダンスも煽りもMCも洗練されていることなんて知っていた。彼女は夢アドの太陽だと、今でも思っている。それに対してどこか影のある、推しの成長を見守りたいと思った。彼女の存在が、一度壊れかけたグループの光だと思った。
そう、私は「夢みるアドレセンス」ってグループが大好きだったんだ。
推しに会うために、また現場に足を運ぶようになった。元推しのパフォーマンスは、今も昔も変わらず最高だった。初期メンバーに追いつこうとする推しの努力に胸を打たれた。追いつかれまいとする元推しがかっこよかった。すごく、たのしい時間だった。

今年度に入って、ツアー以降、現場にほとんど行くことができなくなった。全くないわけではないけれど、回数が少なかったり、イベントがあっても告知が直前で都合がつかなかったり、単独イベントがほとんどなかったり、新曲が出なかったりで、行けずじまい。大学に入った直後と同じ状況だった。嫌な予感はずっとしていた。それでも元推しはたくさん外部仕事があったし、推しもいろんな活動を始めたり挑戦したりしていた。だから、卒業が発表されても、あぁその時がきてしまったんだな、って感覚だった。もともとモデルが集まったグループだったから、いつかモデルに戻ると思っていたし、二期として入った推しはモデルではなかったけど、DJとしての露出も多かったし。最初は、すごく納得していたんだ。

二人は、嘘がつけない人だった。最初に情報が出た時は、みんなが納得しての卒業じゃないか、って、少し希望的な観測を抱いていた。それならそれでいいと思っていた。
でも、そうじゃなかった。
だから二人とも、やり切ったなんて言葉はかけらも使わなくて、悔しい、もうこの場所で夢の続きを見せられなくてごめんね、って言った。本人の希望ではない卒業だと訴えられているようで、それが、すごくくやしかった。
アイドルの卒業発表で、本人の言葉に「卒業」の2文字がないなんて初めてで、デマなんじゃないかと信じたくなって、謝罪の言葉を見て絶望した。悲しいや寂しいよりも、悔しかった。これからも個人での仕事を見ることができるだろうって分かっていたから、二度と会うことのできないさびしさとかはなくて、ただ二人の夢を叶えられなくて悔しいという気持ちばっかりだった。
「それなら、これからも応援してあげなきゃね。」
本現場の推しに、少しだけその話をした。そうしたら、彼はこう言った。
「一番悔しいのは推しちゃんだと思うし、ちゃんと支えてあげてね。」
二人の夢も、本現場の推しの夢も、武道館だった。
もちろんこれからも推しを応援したい気持ちと、推しの言葉や顔も好きだけど、アイドルとしての推しを好きになったんだってわがままも捨てきれなかった。アイドルとして武道館に立つ推しを見たかった。それは、これからの推しを応援していてもきっと見ることのできない景色だ。やさしい言葉がうれしくて、すごく悔しくて、アイドルとしての推しを応援できない未来に寂しくなって、私はやっと泣けた。

卒業ライブも唐突に、平日に決まった。当然行くことはできなかった。大好きだったプロデューサーは、高画質での生放送をしてくれて、だから私は映像だったけど推しの最後のステージを見ることができた。

夢アド初期の名曲はキャンディちゃん、中盤期はファンパレ、二期が入ってからはメロンソーダだと思っている。

「あなたから好きと言われたならアイドルなんてやめちゃうかも」
『いやいやいやいややめないで!』

二期以降の楽曲で一番コールが盛り上がるのは、メロンソーダのこの部分だろう。卒業ライブのラストでメロンソーダが流れた時は、そんなことすっかり忘れていた。サビに入って、思い出した。推しは、歌えないだろうと思った。ライブ中、たびたび悔しそうな寂しそうな顔をしていたから。
「あなたから好きと言われたなら」って、推しは、やっぱり泣いて歌えなかった。その姿を見て、やっぱり、まだ応援していたいと思った。

なのに、元推しは躊躇うことなく笑顔で「アイドルなんてやめちゃうかも!」って歌うんだ。元推しらしい、と思った。完璧なアイドルだった。
同時に、めちゃくちゃに寂しくなった。元推しが、アイドルじゃなくなることが。アイドル界から元推しがいなくなることが。歌声もビジュアルもトークもぜんぶ、ぜんぶがアイドルの神様に愛されていた元推しが、武道館を踏まずにアイドルを卒業することが悔しくて、悲しくて、泣いた。モデルやラジオ、芝居の仕事がたくさん来るのは知ってる、でも私はアイドルの元推しを好きになった。いいや、元推しに出会ったからアイドルを好きになったんだ。

研修生の頃の推しを、アイドルになる前の推しを知っている。でも、私はアイドルじゃない元推しを知らなかった。7年半アイドルだった元推しは、出会った6年半前からずっとずっと、アイドルだったから。

本人たちも、どうにもならないことだったって言う。それでも、私がもう少し現場に行けたなら、本現場にしていたなら、友達を連れて行ったなら、って気持ちは一生残るだろう。明らかに「運営の都合で」卒業させられた推しを見て思う。
それでも、そんなことはずっと気付いていたことだった。こんなに可愛くてこんなにすごいアイドルなのになぜ売れないの?それは6年半考え続けたことだったよ。ほぼ全員が元モデル、子役だから抜群にスタイルが良くて顔が良くて現場慣れしていた。もっと有名になったアイドルグループと比べてもその差は一目瞭然だった。個人の仕事も多くて地上波の番組に出ることも珍しくなかった。個人の力が、地下アイドルというにはそぐわないほど強かった。
でもそれは、勢いだったり、ブランディングだったり、タイミングであったり、いろんなものが理由で花開かなかったんだと思う。

推しはまだ、アイドルでいたかったんだと思った。元推しは、悔しくはあっても、時の流れによってアイドルでなくなるならそれでいいと思っているんじゃないかって感じた。

これからも推しを応援したいと思うし、彼女は壁にぶつかって成長していくと思うから、その言葉を、その姿を見守りたいと思う。その先には、また別のアイドルになったり、歌ったり踊ったりする未来もあるかもしれない。彼女は今も、ラップをする女の子の声優オーディションを受けているし、まだ歌っていようとしている気がするんだ。
夢アドに出会って一層輝き始めた推しは、リーダーである私の元推しと、奇しくも同い年だった。元推しが太陽なら、推しは、月だと思った。太陽と出会って輝き、新しい光を与える人。これからどんな世界を見せてくれるのか、楽しみにしているよ。

対して元推しは、きっとアイドルではない道を歩くのだろうという予感がある。すっきりした顔でラストライブに立った元推し。トークでもモデルでも勝負できるものはたくさんある、経験値も豊富な元推しは、夢アドでないのなら、アイドルにこだわる理由はきっとない。

泣きながら卒業する推しの姿はもちろんつらかったけど、笑顔で卒業する元推しの姿の方が、私には絶望感を感じたよ。

「楽しいことより、辛いことの方が多かったよ。」
元推しは笑顔で、そう言い切った。
「もう一回アイドルするかって聞かれたら、そうだなぁ。」
悪戯っぽく彼女は笑った。彼女は、最後まで正直で、嘘をつかなかった。
「それでも、やるんだろうよ!」
もう一度やりたい、でも、やってやってもいい、でも、きっとやる、でもなくて、やるんだろう、って彼女は言った。辛いことの方が多かったと振り返って尚、当然のようにその道を進むだろう、って。
アイドルになる運命にあって、アイドルらしい魅力を兼ね備えて、アイドルとして人生の3分の1を過ごした彼女は、もともとキッズモデルだったし、アイドルになるために芸能界に入ったわけではないと知っていた。アイドルになるためにオーディションを受けた推しと違って。
だから、いつかこんな未来が来ることは、どこかで分かっていたんだよ。それでも、明日から元推しがアイドルでない1日が始まるということを、ラストライブを見ながらも信じることができなかった。それくらい、歌もダンスも安定感があって、可愛らしい声、華奢な体格に大きな目、愛嬌のあるえくぼ、どれだけ初期メンバーがいなくなっても個人仕事が忙しくても残り続けてきたリーダーとしての責任感、誰も傷つけずに笑わせるセンス、締めるところは締めるMC、絶対に嘘をつかず真っ直ぐ前を見ていた姿、強さ、優しさ、明るさ、どれもが完璧なアイドルだった。女子中学生が22、3になるまで、一つのスキャンダルも出さずに、一番可愛いを更新していた。

貴女以上のアイドルに出会うことはないって、そう思っているから、私はとても悔しくて寂しい。貴女がアイドルでない時代にきてしまったことが。でも、ファンの多くがそう思っていても、貴女はとっくに前を向いていると知っているから、私はこれからの貴女の幸せを祈って、時々懐かしい動画を見ることにしたいと思っています。
夢みるアドレセンスの名前が残っている限り、必ず初代リーダーの荻野可鈴を知ると思う。
最高で最強なアイドルの姿が少しでも誰かの記憶に残るなら、その名前の意味はあるはずだ。
7年半お疲れさまでした、6年半ありがとう。最後のライブの幕が下りるまで、貴女は最高のアイドルでした。
荻野可鈴が、人生最初の推しでよかったです。